HOT TO RUN FASTER

さらに速く走るために

第4回

コーナーで転ばない秘訣

瞬足といえばコーナー(曲走路)をうまく走ることが出来るクツとして知られていますが、そもそも、なぜコーナーでは走るのが難しいのでしょうか?

コーナーを走るときには、私たちのカラダには遠心力という力がはたらくといわれています。遠心力とは、わかりやすくいえば、カラダをコーナーの外側のコースへと追い出そうとする力です。これが働くとカラダが外側のコースへ飛び出したりするだけではなく、転倒を避けるためにスピードを低下させたりするために、とても走りにくくなります。しかし、実際には、遠心力が大きくなるわけではなく、私たちのカラダがコーナーの内側へと向かおうとする力(求心力)が弱まってしまうために、その結果として遠心力が大きくなってしまうのです。したがって、コーナーでは求心力を高めるような工夫が必要になります。

たとえば短距離走選手は、カラダをやや内側に傾けて(内傾して)コーナーの外側の足をより強く蹴ったり、内側の腕(左腕)よりも外側の腕(右腕)をやや大きく、力強く、そしてコーナーの内側へと向けて振ったりして求心力を高めています。このようなランニングフォームによる工夫は、小学生のお子さんでも実践すれば、コーナーでのスピードアップに効果的でしょう。ただし、あまり内傾することを意識し過ぎると、靴と地面との間の摩擦力が弱まるために転倒する恐れがありますので注意が必要です。

短距離選手の場合、かなり内傾しても転ばないのは、裏側にスパイクピンのついたシューズを履いているからです。瞬足にも、短距離走選手が履いているスパイクシューズほどではないですが、コーナーの内側にスパイクピンに相当するポイントが左右非対称に配置されています。学校のグラウンドのような滑り易いトラックでは、あのポイントが、お子さんたちの走りをサポートしてくれることでしょう。

ところで、小学校の運動会では、お子さんが転ぶ姿よりも、PTAのリレーなどで保護者の方が転ぶ姿を良く目にします。そこで次に、保護者の方がよく転ぶ理由を物理の法則から考えてみたいと思います。遠心力の大きさを物理の計算により求める時には、以下の式で求めます。

この式の中で、Fは遠心力、mは体重(厳密には質量)、vは走るスピード、そしてrはコーナーを描く円の半径を意味します。この式を分かり易く説明すると遠心力は体重が大きいほど、そして走るスピードが速くなるほど大きくなってしまいます。特に、速度に関してはその2乗に比例して大きくなるため、遠心力の大きさには速度が大きく影響することが分かります。さらに、コーナーを描く円の半径が分母にくることから、半径が短くなるほど遠心力が大きくなってしまうことがわかります。そして、この式から、お子さんに比べると体重も重くて走るスピードも速い保護者の方には、お子さん以上にとても大きな遠心力がはたらくことは明らかです。そして、中学校や高校のトラックは、一般的に一周が200メートルであるのに対して、小学校のトラックは110メートルから150メートルほどしかないようです。つまり、同じ保護者の方が全力で走った場合、中学校や高校のグラウンドに比べると、小学校のグラウンドでは、より大きな遠心力が作用します。保護者の方は、お子さんの前の見せ場だからといって、あまり熱を入れすぎないように注意するのが運動会でより速く走る秘訣です。

さて、ここまで読むと、靴売り場で私(の写真)が叫んでいる「コーナーを攻めろ!」は良くないのでは? という声が聞こえてきそうです。そこで実際に、コースをひとつずつ変えて遠心力を計算してみると、実は、コースによる遠心力の影響の差はわずかだけであり、コースの違いよりも、体重やスピードの違いによる差の方がずっと大きいことがわかります。ですから、運動会ではコーナーをギリギリにせめて、最短距離を走り抜けることが勝利への近道となるわけです。さあ、間もなく秋の運動会シーズンです。ポイント付きの瞬足を履いて内側ギリギリを攻められるように頑張って行きましょう。