HOT TO RUN FASTER

さらに速く走るために

第23回

「熱中症対策について」

ここ数年「熱中症」に関する注意喚起が頻繁になされるようになり、保護者の方々にも「熱中症」に関する情報がよく知られるようになりました。この「熱中症」、最近の地球温暖化により発生するようになった訳ではなく、実は以前から、主に夏場のスポーツ活動で大人にも子どもにも見られる危険な症状でした。最近になりニュースなどで発生が伝えられたり、注意喚起がなされたりするようになったのは、それが時には命にも関わる危険な症状であるという認識がなされ、保護者の方やスポーツの指導者の方にも情報が広まったためです。
既によくご存知の方も多いかもしれませんが、夏が近づくこのタイミングということで改めて、熱中症に関してお話させていただきます。

夏のスポーツ場面において、保護者の方々のなかには、熱い日差しを回避すれば熱中症は避けられると思っている方も多いと思います。しかし、熱中症は日差しによる熱の上昇だけではなく、カラダが熱をどれくらい発散することが出来ているかによっても影響を受けます。したがって、屋外の日差しだけではなく室内であっても気温や湿度にも影響を受けるため、家の中や体育館など室内の場合でも熱中症にかかることがあるわけです。また子どもの場合、大人よりもカラダが小さいために熱を発散し難いため、大人の感覚ではなくて、子どもの状態を見ながら大人が対応することが求められます。

「熱中症」と呼ばれるものには、熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病の4つの病型があります。スポーツの場面では大人による「予防」と発生してしまった時の「対処」が非常に重要です。以下に、それぞれの症状と発生したときの対処法を記載します。

「熱失神」は、主に炎天下でのスポーツ活動や観戦の最中・運動後に起こります。立ち上がった時や立っている時にめまいが起こったり、失神したりするのがこれにあたります。原因としては、皮膚の血管が広がることと、血液が主に下半身に集中することで血圧が下がり、脳の血流が減少することが考えられます。したがって、このような症状が発生した時には、足をやや挙げて寝かせることで症状は回復します。

「熱けいれん」は、主にカラダの塩分不足により起こる症状です。汗が口に入ると塩味がした経験があると思いますが、汗には塩分が含まれています。そして、熱さや運動により大量の汗をかきますが、この時に水分だけを補給して塩分を補給しないと、カラダの塩分は減少していきます。暑い中で運動中に足をツッたり、筋肉が痙攣(けいれん)するといった症状、実はこれが原因だと考えられています。このような症状が起こらないために、症状が出る前から塩分(ナトリウム)を含んだスポーツドリンクなどを使って水分補給をします。

「熱疲労」は、暑さによる脱力感、倦怠感(けんたいかん)、めまい、頭痛、吐き気などの症状が見られます。これは汗を大量にかくことによる水分不足(脱水)と皮膚の血管が広がること(血管拡張)により、血液の循環が十分ではなくなること(循環不全)により起こります。この場合も、スポーツドリンクで水分補給することで水分と塩分を補給でき、症状も回復すると考えられています。ただし、吐き気を訴えたりして水分補給ができない場合には、病院などで点滴による水分と塩分の補給が必要であるため、医療機関での受診と処置をお勧めします。

「熱射病」は、体温が過度に上がることにより、主に体温調節に関する脳の機能が正常に働かなくなった状態であり、体温が40度前後あるいはそれ以上になった時に見られます。この場合、体温調節のみならず、意識障害や言語・会話への応答にも影響がみられ、重症の場合には昏睡状態になる場合もあります。このような状態が続くと、脳だけではなく臓器にも影響し、多臓器不全などにより死亡する場合もありますので、救急車の要請とともに、待っている間にも水や氷、扇風機やうちわなどを使って、できるだけ体温を下げることが必要となります。

<参考文献>
「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」,公益財団法人日本体育協会 発行。