第5回
瞬足
瞬足

短距離は無酸素運動だから息を止めて走るの?

「短距離は無酸素運動だから息を止めて走るんでしょう?」
先日開催された瞬足陸上教室で、参加者のお子さんから受けた質問です。正直言って、小学生のお子さんから「無酸素運動」なんて言葉が出てくることを予測していなかったので、尋ねられた時にはかなり驚きました。これって、小学生のお子さんたちが普段から使っている言葉なのでしょうか? この質問をしてくれたお子さんは、無酸素運動だということで、走るときにはクチを閉じて歯をぐっと噛みしめて走るのだそうです。果たしてこれって正しいのでしょうか。

走るときにクチをぐっと噛みしめると、肩には必要以上に力が入ってしまいます。そんな状態のままで走ると、腕を滑らかに振ることが出来なくなくなってしまうでしょう。腕振りは足の動きと連動しているために、これでは結果として遅い走りになってしまいます。さあ、その場で立って、実際に腕振りをしてみましょう。クチは閉じずに、肩をリラックスして腕を振ります。だんだんと早く腕を振ってみましょう。そうすると、息を止めて腕を早く振りたくなるのかもしれませんが、あえてリラックスして腕を振ります。リラックスを心がけて腕ふりすると、呼吸のリズムも腕振りに合ったものになってきて、クチは自然とやや開いた状態になると思います。

ところで、ソウルオリンピックの頃に活躍した選手で、F.G. ジョイナーという選手がいたのをご存じでしょうか。ジョイナーは中間疾走あたりからは必ず笑顔で走ったために、その笑顔は「ジョイナー・スマイル」などと呼ばれたりもしました。この「ジョイナー・スマイル」には、中間疾走を過ぎて勝利を確信したジョイナー選手が喜びのあまり、自然と出す笑顔だという説と、終盤の疲れが表れた頃に余計な力が入らないように、ジョイナー選手があえて心がけていたものだという説があります。ジョイナー選手はその後、39歳の若さで亡くなってしまったために、今となってはどちらが真相かは分からなくなってしまいましたが、あの笑顔の結果として、ジョイナー選手は未だに更新されない世界記録(100m 10秒49、200m 21秒34)を樹立することができたのではないでしょうか。お子さんたちの運動会でも、楽しい走りで笑顔が溢れると、きっと良い走りが見られるのではないでしょうか。

さて、最初に出てきた「短距離走は無酸素運動」、このことは紛れもない事実です。ただし、ここでいう「無酸素」というのは、「口から酸素を取り込まない」ということではありません。では、なぜ「無酸素」というのかといえば、エネルギー物質を分解して筋肉を動かすための熱エネルギーを発生させる過程で酸素を必要としないからだといわれています。つまり、この過程で、酸素を使うのが有酸素運動であり、酸素を使わないのが無酸素運動であるということなのだそうです。こんな難しい理論ですが、結論だけでも小学生のお子さんに浸透してしまったことは驚きです。

難しい理論はおいといて、短距離走であってもしっかり呼吸をしてリラックスを心がけましょう。